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おすすめの使い方・楽しみ方、さらには生産者の方の想いまで、さまざまなコンテンツを発信していきます。

2021/11/12 16:07




2021年11月12日(金)より〈KISO ORIGINAL〉のオンラインショップにて、『手ぬぐい 木曽のけもの』『手ぬぐい 赤かぶ』『木曽のほぞんしょく おかず瓶 お試しセット(*)』を発売。​​

新しく発売する3つのプロダクトは、〈KISO ORIGINAL〉として初めてのオリジナル商品です。木曽をまだ知らない方も含め、どなたからも手に取ってもらいやすい手軽さがありながらも、どこか木曽を感じられるプロダクトを目指しました。

今回は、プロダクトのデザインを手がけた、木曽町在住のデザイナー蒲沼 明さん(BOCCA代表/たにぞこぐらし)にインタビュー。デザイナーを志したきっかけから、自身のデザインと木曽とのつながりなど興味深いお話を伺う中で、普段あまり語らないという意外なエピソードも飛び出します。〈KISO ORIGINAL〉のプロダクトデザインに込められた想いもたっぷりと語って頂きました。

* 『木曽のほぞんしょく おかず瓶 お試しセット』は2022年5月現在、販売終了しております。


▲「手ぬぐい 木曽のけもの」



▲「手ぬぐい 赤かぶ」



▲「木曽のほぞんしょく おかず瓶 お試しセット」(2022年5月現在、販売終了)


Interview - 蒲沼 明さん(BOCCA代表/たにぞこぐらし)
デザイナーはアーティストとは違う、もっと商業的な職業


―BOOCAとしてデザイン業を営む傍ら、木曽での暮らしや動物をモチーフにしたオリジナルのデザイン「たにぞこくらし」や、同名義で地域発展のプロジェクトに参画するなど、幅広く活動されている蒲沼さんですが、そもそも“デザイン”を仕事とするようになったのはいつからなのでしょうか? デザイナーになるまでの経緯を教えてください。

高校生くらいの時からデザインに興味があって、大学で京都のデザイン学校に進みました。当時はグラフィックデザインをやりたかったのですが、受かった学科が「環境デザイン学科」といういわゆる建築系の学科で。本来学びたかったグラフィック系の授業にこっそり潜り込んだりして独学で学んでいましたね(笑)。

その頃から、知り合いのクラブイベントのフライヤーをデザインしたりしていて、広告物のデザインにはずっと興味を持っていたんですよね。そんな経緯もあり、学校では家具のデザインをメインで学んで、卒業後は高山にある家具メーカーに就職しました。そこでもやっぱりグラフィックデザインをやりたいなという気持ちがずっとあり、京都の制作会社に転職しました。その後、結婚を機に地元(木曽)に戻って、印刷会社で働きつつ、副業のような形で個人でもデザインの仕事を請け負っていました。この時にグラフィックデザイナーとしての職務経験をしっかりと積んだような形ですね。現在の屋号である「BOCCA」の名義で活動し始めたのがこの頃からです。2014年に正式に独立したので 、いま7年目になります。

―高校生でデザインに興味を持ったきっかけみたいなものはあったんですか?

よくある話ですが、小さい頃から絵を描くのが好きで、それを親とか周囲の人たちに褒めてもらえるのが嬉しかったんですよね(笑)。そんな体験から、自分の作ったものが世の中に評価されて認めてもらえるような仕事っていいなと思ったんです。

―当時どんなものを描いていたんですか?

高校生の頃は学園祭のポスターを制作したり、といった感じでしたね。当時は松本大洋さんのイラストが大好きで、影の付け方などは真似して描いていました。

―現在のイラストのタッチにも通ずるようなところもありそうですね。BOCCAとして活動する中で大切にしている想いはありますか?

僕はデザイナーなので、アーティストとは違ってもう少し商業的な職業だと思っています。「BOCCA(ボッカ)」にはふたつの意味があって、ひとつは山小屋の食料品など重い荷物を背負って山へあげる「歩荷」。そしてもうひとつはイタリア語で口を意味する「Bocca」。

見えないところで汗をかく縁の下の力持ちのような存在でありながらも、世の中に対して自分の想いやメッセージを発信していけたらいいなという、そんな想いで名前をつけました。


▲「たにぞこぐらし」でのイラスト

「木曽には戻りたくて、戻ってきたわけではなかった……」
新たなスタート、地元で見いだした“自分らしい”デザイン


―自らも積極的に発信していく、世の中に問いかけていく姿勢がとても素敵です。まさにそれを体現している「たにぞこぐらし(蒲沼さんご自身が主体の活動)」について教えてください。

「たにぞこぐらし」は、自分でTシャツを作ってみよう、というところから始まっていて。3年前の木曽の手仕事市(*)にお誘いをいただいた時に、特に出展するものがなく困っていたら、周りの方々に「Tシャツとか作ってみたら?」って打診されたのがきっかけなんです(笑)。

実際にやってみると意外に楽しくて。それまでの仕事だと、相手は企業なので、その先の、自分がデザインしたプロダクトを手に取ってくれた本来のお客さんと直接関わる機会があまりなかったんですが、「たにぞこぐらし」のプロジェクトは、お客さんと直接関われたり、自分のデザインやプロダクトについて、直にフィードバックをいただける経験がすごく新鮮で。そういう体験ができるのが、BOCCAとしての仕事とは違った面白さですね。

*木曽の手仕事市:
木曽福島で毎年夏に開催される市で、全国からクラフト作家が出店。通常のクラフトフェアとは異なり、街角・空家・蔵などが出店場所になって町全体が会場となる。

あと僕の場合は木曽に戻ってきたくて戻ってきたわけではなくて(笑)。実は京都での仕事で大きな挫折を味わって。どうにも立ち行かなくなった中で、親に帰ってきなと。そんな形で地元に戻ってきたんですね。

でも木曽で仕事をする中で、やっぱり地元のいい部分を発信していきたいなという想いは強くなりましたし、木曽で育ったからこそ、それを強みにするしかないなと。

―そうだったんですね。だからこそなのか、蒲沼さんの作品は木曽の暮らしや風景をデザインに取り入れたものが多い気がします。木曽という場所は、蒲沼さんのデザイン活動にどのようなつながりがあるのでしょう? 

木曽はとにかく自然が多い環境なので、その部分はデザインを考える上でも大きく影響していると思います。例え都会で同じようにデザイナーをやっていたとしても、現在のようなものにはならなかったんだろうなとも思いますし。

あとなかなか辺鄙な場所なので、ここに集まってとどまっちゃう人たちって、みんないい意味で変人で(笑)。そんな人たちと繋がれたという部分も自分にとってはとてもよかったなと思います。こっちに帰ってきたからには「木曽を好きになりたい」という想いに自然になっていった部分もありますし、意識的に木曽という地域性のようなものはデザインに取り入れています。

―依頼をいただく企業も木曽エリアの方々が多いんですか?

実は独立したばかりの頃は、逆に地元の仕事って少なくて。当時一緒に仕事をしていた知人の紹介で東京とか木曽の外での仕事が多かったですね。ここ数年でやっと地元での仕事の比率が多くなってきたような感じです。

―木曽での思い入れのある仕事をいくつか教えてください。

一つは、上松町を拠点に活動されている「AGEMATSU WOOD LIFE MAKING」さんとのお仕事ですね。WEBサイトのデザインと、冊子のデザイン、それに付随するイラスト制作などを担当させてもらったんですが、代表の小林さんが「たにぞこぐらし」のイラストをすごく気に入ってくれていて。そこからこの     仕事を依頼していただいたんですが、そうやって「たにぞこぐらし」の活動から新たな仕事が生まれる最初の経験だったので、思い入れがあります。あとは制作メンバーが全て木曽地域の人たちで完結した仕事でもありました。そのような環境で世の中にアウトプットできたというのは感慨深く思います。


▲「AGEMATSU WOOD LIFE MAKING」Webサイト


▲「AGEMATSU WOOD LIFE MAKING」コンセプトブック

もう一つは、「ふらっと木曽」の坂下さんと一緒に取り組んでいる「里らぼ」です。無印良品のプロダクトデザインなどを担当されていた高橋孝治さんを講師に招いて、木曽で活動する方々のものづくり・ことづくりを応援する実践型のプロジェクトなのですが、こちらは企画から告知物のデザインまで携わっています。また参加者の取り組みもサポートしながら一緒になって進めています。

そして最後に「W/ODD」という最近ローンチしたプロジェクトです。こちらは「里らぼ」1回目の参加者の勝野木材さんとの取り組みで。木曽はひのきが有名なのですが、勝野木材さんでも木曽ひのきを使ってさまざまな製品を製造していて、その時に出る木材の端材をうまく再利用していこうというというプロジェクトです。通常では破棄されてしまう端材を無駄なく利用して新たな価値を生み出していくというコンセプトにすごく共感しますし、いちデザイナーとしての関わりを越えて、自分のプロジェクトのように熱を持って取り組んでいます。こうやって振り返ると、本当に人とのつながり、ご縁を感じられるワークスタイルになってきています。


▲「W/ODD」Webサイト


▲「W/OOD」で販売している端材たち。購入者の自由な発想で使うことができるプロダクトが目立つ。

―1つのプロジェクトが次の仕事につながっていって、共感しながらも、自らも木曽の魅力や文化を発信できるようなお仕事ですね。蒲沼さんにとって木曽は地元ですが、改めてその魅力を教えてください。     

今回携わらせていただいた「おかず瓶」もそうですが、木曽独自の食文化はやっぱり面白いなと思います。塩が貴重だった環境だからすんきが生まれたとか、木曽の地理的な要素とそこに住む人たちの生活が密接に関わって形成された文化は大きな魅力だと感じます。あとは山が本当に迫ってくる感じとか、開けている土地の景色も好きですが、それはそれでちょっと落ち着かないというか……(笑)。

―まさに”たにぞこぐらし”ですね(笑)

やっぱりなんか安心するんですよね(笑)。木曽は昔の文化、手仕事がすごく残っている地域なので、昔は当たり前だったことを新鮮に感じることも多いです。ただ担い手は少なくなってきていて、そういう文化を次の世代に繋げて残していくという部分は課題と感じていて、今後取り組んでいきたいなと思っています。

―木曽でおすすめの場所はありますか?

今の話にも通じますが、木曽川沿いの「崖屋造り」は再建が難しく、今のものが壊れてしまったら消えてしまう風景なので。とても好きですし、貴重なものだと思います。

―木曽は本当に独自の文化が根付いていてどれも貴重なものですよね。好きな料理はありますか?

「朴葉巻き」は知っている方もいるかと思いますが、僕の地元には「朴葉めし」というのがあって。

―初めて聞きました!

作り方は朴葉巻きと一緒なんですが、中身が餅米でそこに少し塩を混ぜて朴葉に包んで蒸すんです。最近僕も見なくなりましたが、すごく好きで。なんで他のところでは見ないんだろう(笑)。

―今度木曽を訪れた際は探してみます(笑)!最近では上松町の方でテントサウナイベントが開催されたりと、木曽地域に新たな動きもみられますが、変化を感じることもありますか?

地域おこし協力隊の方々もパワーがありますし、アンテナを高く張っている人たちが増えてきている印象はありますね。僕自身もそうですが、若者たちが自由に活動できる環境が整ってきていると思います。でもまだまだ足りない部分もあって、もっと地域全体で横の繋がりを生み出していけたらなと思います。せっかく若い人たちも増えてきているので、先人である年配の人たちと関わる機会を増やして、そこから独自の文化を吸収して、次の文化やおもしろい活動に繋げていきたいなと考えていて、模索している最中です。

制作チームと二人三脚しながらの初めての試み。
“木曽らしさ”を残しつつ、手にとりやすいデザインに


―最後に今回デザインしていただいた商品たちについて、制作に込めた想いなどをお聞かせください。

まず「おかず瓶」は、味もすごく美味しいし魅力的な商品ではあるんですが、どうしても色合いが地味だったり、すんき自体もいまだにちょっと渋い印象だったりするので。できるだけポップで親しみやすく、いろんな人に手にとってもらいやすいデザインを心がけました。具体的には、動物をモチーフに取り入れることでよりキャッチーになるように工夫しました。「てっか味噌」として、というよりも「クマの絵のお惣菜」として認識されるぐらいのデザインを目指しましたね。



―蒲沼さんにとって、商品パッケージのデザインは初めての経験でもあったと伺っていますが、苦労した点などはありましたか?

普段よくデザインしている冊子やフライヤーなどのグラフィックと違って、平面ではなく立体物になるので、その辺の見せ方は難しさもありました。正面に対してどうデザインをレイアウトするかはとても悩みましたね。試作品を作って手に持った感じなども確かめながら制作して、僕自身にとってもとても良い経験になりました。

―ありがとうございます。手ぬぐいの方はいかがですか?

手ぬぐいの2つのデザイン「木曽のけもの」「赤かぶ」についてもそこから派生したデザインにしていて、おかず瓶を誰かに渡す際にこの手ぬぐいたちに包んで渡してもらうようなこともイメージして制作しました。「たにぞこぐらし」で体現しているような、あまりかっちりさせすぎず、少し面白さ、ゆるさのあるデザインを目指しました。


▲手ぬぐいで木曽のお酒をラッピング。いろんな使い方ができる

―本当に素敵なデザインにしていただきました。ありがとうございます。蒲沼さんだったらどんな人におすすめしたいですか?

手軽に食べ切れる量でもありますし、木曽を出た学生さんだったり、逆に木曽をまったく知らない人に手に取ってもらったりしたら嬉しいですね。僕自身の友人にも自信をもっておすすめできます(笑)!

―僕らとしてもとても嬉しいです。最後に購入者へメッセージをお願いします。

実際に僕も3つとも食べてみて、そのままご飯に乗せて食べるのももちろん美味しいのですが、木曽のお酒と一緒につまんで食べるのがすごくおすすめです!僕はこれが一番でしたね(笑)。お蕎麦とかにも合いますし、木曽のいろんな食材、料理と合わせて自分なりの食べ方を見つけてもらえると嬉しいです。


Interview&Edit by KISO ORIGINAL

Photo by 中村 寛史(プロダクト写真)

写真提供 たにぞこぐらし / 木曽らぼ / AGEMATSU WOOD LIFE MAKING / W/ODD



 [ 蒲沼 明(BOCCA代表/たにぞこぐらし)] 

Photo by Eiichiro Nagaya

1983年 長野県木祖村生まれ。2014年よりBOCCAを屋号に木曽谷を中心にデザイン業を営む傍ら、地域の外からポーンとやって来た「隕石」とその地域で暮らす人が一緒に飲んで食べて仲良くなる「隕石ナイト」の企画・運営や、木曽谷の底にへばりつきながら暮らす中での気づきをかたちにする「たにぞこぐらし」としても活動を行なっている。木曽地域の埋もれかけてしまっている文化や知恵を再び耕すことで地域の新たな土壌となる「もの・こと」をつくる実践的なプログラム「里らぼ」にも運営メンバーとして参画中。 


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